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2023.07.06 (木)

「 露内乱、3悪人より怖い中国の脅威 」

『週刊新潮』 2023年7月6日号
日本ルネッサンス 第1055回

劇的に発生した対立は24時間で呆気なく終わった。だが、ロシアが内戦に陥り、ウクライナ侵略戦争にも局面の大転換が起きるかも、と一瞬思わせた事件はここで終わることなく、二幕目、三幕目と続くだろう。

6月23日金曜日、ウクライナ侵略戦争でプーチン大統領の手先となって戦う民間軍事会社ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジン氏が「行軍を開始する」と宣言し、翌24日、モスクワまで200キロに迫った。

ワグネルがロシア国内の反プーチン勢力と結びつけば、軍事クーデターもあり得る。ウクライナ及び米欧はこの機会をどう活用するか。核兵器はどうなるか、中国はどう動くか。日本はどうすべきか。多くの考えが頭の中を駆け巡ったのは当然だ。

プーチン氏は現地時間の24日土曜日朝、国営テレビで緊急演説を行い、厳しい表情でワグネルの行動を「裏切り」と非難したが、その後、事実上姿を消した。ロシアの安定と権力層の利益を守ってきた比類なき支配者だったはずのプーチン氏が、子飼いのワグネルをコントロールできない姿を晒してしまったのだ。

息をのむ思いでいたら、25日の日曜日、ワグネルの部隊は撤収を始め、プリゴジン氏はベラルーシに亡命した。同国のルカシェンコ大統領が「20年来の友人」であるプリゴジン氏とプーチン氏の手打ちを仲介したからだという。

仲介はどのようになされたのか。種々の報道からその一端が見えてくる。24日土曜日、ワグネルがモスクワまで200キロの地点に迫った時、プーチン氏がルカシェンコ氏に電話をかけてきたと、ベラルーシの国営メディア、ベルタが報じている。ルカシェンコ氏が仲介を申し出ると、プーチン氏は、プリゴジン氏は電話に出ないだろうと言って交渉には否定的だったという。だが結局、プーチン氏は仲介を受け入れた。ルカシェンコ氏は直ちにプリゴジン氏に電話した。すると即、応答したそうだ。

両氏の会話は聞くに堪えない罵倒語にあふれていて、怒鳴り合いが続いたが、最後にプリゴジン氏が撤退を受け入れた。

米国情報機関の動き

これはルカシェンコ氏を持ち上げることを最優先する国営メディアの報道であるからそのまま信ずるわけにはいかない。だが、プーチン氏がルカシェンコ氏に電話をかけたタイミング、プーチン氏自らが最初のワグネル非難のメッセージの後、姿を見せず、指導力を発揮していない状況などから、氏の権威が地にまみれたのは事実だろう。

ロシア大統領府は24日、プリゴジン氏に対する捜査を停止しベラルーシへの亡命を認めるなど、4項目の合意を発表したが、3悪人による合意など、そのとおりに守られる保証はないと言える。

ワグネルの撤退が始まった後、ルカシェンコ氏はプーチン氏から感謝の電話を受けたとも報じられた。かつて窮地にあったルカシェンコ氏を救ったのがプーチン氏だった。2020年の大統領選挙で6選目の「勝利」を果たしたルカシェンコ氏にベラルーシ国民が大反発し、首都ミンスクでは毎週末10万~20万人参加の大規模デモが行われた。そのときはプーチン氏がロシアの治安部隊を派遣して、ルカシェンコ氏を守った。

今回の仲介でルカシェンコ氏の立場は相対的に強くなり、ロシアの戦術核の貯蔵場所にされかかっている現状から脱け出せるかもしれないとの見方も、ベラルーシでは出ている。ロシア、ベラルーシ、ウクライナは元々同じ民族で、ロシアという国に統一されるのが本来の在り方だとするプーチン氏の考えを、ベラルーシは拒絶できるかもしれないとの見方の延長線上に、ベラルーシの立場が強化される可能性が語られているのだ。

一方、プーチン氏とルカシェンコ氏は双子の兄弟と言われるほど、統治手法には共通性がある。思い出すのは国家主導のハイジャック事件だ。21年5月、ギリシャからリトアニアに向かう民間機がベラルーシ上空でミグ29戦闘機の緊急発進を受けて、首都ミンスクに強制着陸させられた。着陸後、治安部隊が機内に入りルカシェンコ政権への抗議運動で大きな役割を果たしているインターネットメディアの共同創設者、プロタセビッチ氏を拘束した。ルカシェンコ氏はプーチン氏同様、反対意見の徹底的排除や抹殺に手段を選ばない。こうした傾向についてはプリゴジン氏も同じ穴のむじなである。

24日、「ニューヨーク・タイムズ」が電子版で、米国の情報機関の動きを伝えた。明らかに米国の情報当局者は一連の動きを察知していた。整理すると、ワグネルがこれから起こすと思われる反乱について、21日(水)に政府、軍高官に詳細に説明した。22日(木)には議会の少数の幹部にも説明した。そして世界が目撃したように、23日(金)にプリゴジン氏が行軍を開始し、24日(土)に撤収を始めた。

日本の最大課題

右の一連の情報を米国の情報機関は国際社会に開示しなかった。ウクライナ侵略戦争前、米国は盛んに機密情報を開示して国際世論を形成しプーチン氏を牽制しようとしたが、今回は対照的な手法をとった。情報開示がプーチン氏に有利に働くとの理由だったという。

それにしても岸田文雄首相はこの間どうしていただろうか。バイデン米大統領はウクライナのゼレンスキー大統領、英独仏の首脳などと連絡を取り合っていた。ブリンケン国務長官は日本にも24日土曜日に連絡をしてきた。一方、岸田氏は25日日曜日の午前11時30分から25分間、国家安全保障局次長や外務省事務次官、防衛政策局長らに会っている。状況説明を受けるのに25分間で十分だったのかと心配になる。

あっという間の反乱劇だったが、プーチン氏の傷は深い。今後のウクライナ戦争への影響、中国の動向など、考えるべきことは多い。

25日に中国の秦剛外相がロシアのルデンコ外務次官と会見し、続いて馬朝旭外務次官がルデンコ氏と協議した。中露関係は歴史的に最良の時期にあると確認したことが発表され、もう一点、ルデンコ氏が「ロシアは中国と引き続き共に努力し、互恵協力がより多くの成果を収めるよう促すことを願っている」と表明したとも発表された。ここでもロシアが窮地に陥っていることが窺える。

ウクライナ戦争は政治的には決着がついている。ロシアは政治的には敗北しているのである。だが、軍事的展望は別物だ。ロシアも中国も敗北は受け入れない。この戦争を負けない形で終わらせなければならないと考えている。中国にとってはロシアを支え、ロシア支配を強め、同時進行で米欧も疲弊させる好機である。日本の最大の課題は中国の動向分析と対処である。全方面からのびてくる中国の触手を絶えず意識しなければならない。

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